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2013-02-14 (Thu)
平日の睡眠時間と海馬の大きさ
-5~6時間しか寝ない子は、やや小ぶり
プレジデントFamily 2013年1月号
著者
山田清機=文


子供たちの平日の睡眠時間と、記憶に関係する脳の領域、海馬の大きさの関係が最新の研究で明らかにされました。もし、お子さんが寝る間を惜しんで受験勉強しているなら、要注意です。

「寝る子は脳も育つ?」

こんな刺激的な見出しがメディアに躍ったのは、2012年9月半ばのことだった。

東北大学東北メディカル・メガバンク機構の瀧靖之教授らが同大学加齢医学研究所で行った「健常小児における海馬体積と睡眠時間の相関」という研究が、このセンセーショナルな見出しの根源だ。

俗伝で「寝る子は育つ」というが、海馬といえば脳の中で記憶に関わる領域。もしかすると、よく寝る子供は頭がよくなることが証明されたのだろうか?

今回発表された研究成果は、ある疑問からスタートしたと瀧先生は言う。

「以前から、心理学系の複数の研究者が、睡眠時間の短い子供はより多く眠っている子供に比べて学業成績が劣ることを報告していました。学習の基礎は知識を記憶することですから、こうした報告の存在は、子供の睡眠時間の長さと記憶に関わる海馬に何らかの相関関係があることを示唆しているのではなかろうかと」

海馬とは、脳の両側にある側頭葉の内側にある領域で、記憶を司るといわれる。海馬は入ってきた情報を数十秒間ほどの短期記憶に形成し、それを長期記憶に固定する働きをしているとされる。

長期記憶には「江戸幕府は1603年に成立した」というように言語化できる「陳述記憶」と、自転車の乗り方のように言葉では表現できない「手続き記憶」の2つがあるが、海馬は陳述記憶と関係が深いと考えられている。哺乳類の場合、誕生した後に神経細胞の数が増えることはないといわれる。しかし、海馬という領域だけは特別で、生後も神経細胞が増えることがわかっている。

瀧先生らは5歳から18歳までの健康な子供290人(男女比は半々)の頭部MRIを撮影して脳の形態を調べると同時に、詳細なアンケート調査によって同じ子供たちの生活習慣を調べた。そこから得られたデータを厳密な数学的手法を用いて年齢や性の差を補正し、解析した結果、たいへんに興味深い結果が得られたという。

「平日の睡眠時間と海馬の体積には、有意な正の相関が見られた。わかりやすく言うと、睡眠時間をより長く取っている子供は短い子供に比べて、海馬の体積が大きいことがわかったのです」

10時間ぐらいまでは「睡眠時間の長さに比例して海馬の体積が大きくなる」という関係が成り立っている。そして、睡眠時間が1日5~6時間ぐらいの子供よりも、9~10時間ぐらいの子供のほうが海馬が1割程度大きかったという。

海馬が大きいほうが記憶力が良いという研究結果は複数ある。記憶力の負荷が高いロンドンタクシーの運転手は、一般人に比べて海馬の体積が大きいというのもその一つだ。

では今回の結果をもって、「寝る子は脳も育つ」と言ってしまっていいのだろうか。

「注意していただきたいのは、この研究はあくまでも睡眠時間の長さと海馬の体積の相関関係を明らかにしただけで、因果関係を明らかにしたわけではないということです。より長く眠っている子供のほうが海馬の体積がより大きいことは明らかになりましたが、必ずしも『長く寝れば寝るほど良い』とは限らないことを注意してください。今回の研究では、最大でも10時間程度の睡眠時間内での解析なので、これ以上長い場合はどうなるかは説明できません。ただ、睡眠時間が長すぎると、睡眠中に目覚める回数が増えるなど、睡眠の質が下がるという報告もありますから、子供を無理やり長く眠らせようとはしないでください」

では、「寝る子は脳も育つ」は誤りなのかというと、必ずしもそうとは言えないようだ。

「マウスで睡眠剥奪実験(無理やり眠らせない実験)を行うと、海馬の神経新生(神経が新しく生まれること)が抑制されることがわかっています。また、睡眠時無呼吸症候群のように、常に睡眠が浅い状態が続いている患者さんに海馬の萎縮が見られるのも事実です。つまり、『長く眠れば海馬が大きくなる』とは言い切れませんが、マウスの実験や睡眠時無呼吸症候群の患者さんの例から考えて、『十分に睡眠を取らないと海馬の体積が小さくなる』という因果関係が存在するのではないかと推測することは可能です」

睡眠時間を大幅に削られると神経新生が抑制されて、海馬の体積が減少するのではないかと瀧先生は推測している。

「今回調査対象とした子供たちの追跡調査を行っていますので、間もなくこの因果関係についても明らかにできると思います。ただ現時点でも、子供の脳を健康に育てるためには十分な睡眠を取らせたほうがいいと言ってしまっていいのではないかと私個人は考えています。携帯電話やゲームを無制限にやらせて夜更かしさせたりせず、子供はなるべく早く寝かす。脳の発達は10歳前後がピークですから、特に6歳から12歳ぐらいまでの間は、たとえ勉強のためであっても睡眠時間を削るのはよくないと思います」

うつ病やアルツハイマー病の患者では海馬の萎縮が顕著に見られるというから、将来子供をこうした病気に罹患(りかん)させないためにも、10歳前後には十分な睡眠を取らせるべきだと瀧先生は言う。

しかし、中学受験を控えた子供の場合、勉強することが山ほどある。多少睡眠を削るのも致し方ないと思うが、いったい何時間ぐらい眠れば“十分”なのだろう。

「今回の研究から何時間眠れば十分と言うことはできません。しかし、少なくとも10時間までは正の相関が見られたわけですから、たとえ中学受験を控えたお子さんであっても、9時間ぐらいは眠らせてやったほうがいいと思いますね」

「非科学的な見解ですが」と断りながら、瀧先生はこんな話を披露してくれた。

「東北大学の医学部に入ってくる学生たちはそれなりに優秀ですが、聞いてみるとみんなよく眠っています(笑)。僕自身、大学に入るまでは夜の10時前に布団に入って朝の6時半に起きる生活でした。子供の頃、夜の10時以降も起きていたのは紅白歌合戦のときだけでしたよ」

早起きは三文の徳。ただし早寝とセットでなければ脳にはよくないようだ。

瀧 靖之 
東北大学教授。医師。医学博士。東北大学東北メディカル・メガバンク機構所属。東北大学理学部、医学部卒業、2003年同大学大学院修了。同大学付属病院勤務を経て、東北大学加齢医学研究所にて本記事の研究に携わる。また、同大学川島隆太教授の研究室も兼務。
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